前回、「不倫」について書きましたが、その時にふと思い出した小説があります。
私が若かりし頃から「究極の恋愛小説」と呼んでいる泉鏡花の『外科室』という作品です。
とても古い小説ですが、よいものとは時代を問いません。
10代の頃から何十年も読み続けていますが、その年齢年齢で感じ方は違えど、なお飽きることなき素晴らしい作品です。
簡単にあらすじを説明すると、身分の高い美しき伯爵夫人がたった一度視線を合わせただけの医学生に一目惚れ。
またその青年も伯爵夫人に心奪われていたのですが、お互い相手の気持ちを知る由もなく、会うことも言葉を交わすこともなく、ただその秘めた思いだけを抱き続けていました。
そんなある日、伯爵夫人が病に侵され手術をすることになります。
その手術の執刀医がかの青年です。
手術直前に麻酔(眠り薬)を拒否する伯爵夫人ですが、その理由が寝ている間に青年医師への思いを譫言で口走ってしまってはマズイ!という理由(不倫など、とんでもはっぷんな時代ですからね)。
そんな伯爵夫人の願いを、まるで阿吽の呼吸が如き受け入れる青年医師。
メスを入れる直前になって、恐らく初めて言葉を交わしお互いの思いを確認するものの、伯爵夫人は亡くなります。
その後を追うように青年も命を絶つ。。。
といった一連の出来事を、青年医師のお友達が語るという物語です。
なんだか私が説明すると、この作品の良さが伝わりません(笑)
書評は苦手です。。。
とても短い作品ですが、とても描写の美しい小説で、「泉鏡花」のその名のごとく美意識が垣間見えます。
たった一度目にしただけの人に強い想いを抱き続け、最後はその心の秘密を守るために自分の命をかけるという、美しくも現実離れしたお話ではありますが、これぞまさに究極のプラトニックラブだわ!と、十代の頃の私は心酔したものです。
特にお互いの気持ちを確認しあった告白のシーンは、短い言葉ながらひしひしと心情が伝わってくるようでたまりません。
もう何度読み返したことでしょうか?
読むたびに感動します。
そして
「あゝ人生で一度でいいから、こんな深い想いを抱いてみたかったわよ〜」
そう悔いるのです(涙)
この『外科室』は、1992年に歌舞伎役者の坂東玉三郎さん監督で映画化もされました。
主演の伯爵夫人には吉永小百合さん、青年医師は加藤雅也さんという美男美女。
他にも中村勘九郎さんや中井貴一さん、鰐淵晴子さんなど、キャストもGOOD。
そして監督が玉三郎さまです。
玉三郎さまは、以前ロンドンで暮らしていた時の来英公演で『鷺娘』を観て以来大好きです。
このような名作が映像化される時、ほとんどの場合ガッカリさせられることが多いものですが、こちらの作品はかなり原作に忠実に作られていました。
50分だったか、小説と同じくかなり短い作品ですが、その映像美を観ているだけで満足だったのを思い出します。