先日、我が家の外国人夫と二人でタクシーに乗った時のこと。
いつものように、うるさいくらいに喋りまくる夫。話題はといえば相変わらず「税金たかいよな〜」とか「日本経済のこれからは期待できないよな〜」などというボヤキです。
こんな話は耳にタコなので、適当に空返事をしていたところ、突然タクシー運転手のおじさんが英語で話しに参加してきたのです。
しかもボキャブラリー豊富で非常に流暢。これには外国人夫もビックリ。
というのも、タクシーに乗り行き先を告げた時、こんなやり取りがあったのです。
「すみません。お急ぎですか?」
「いえ、特には」
「では、ナビを入れさせて頂きます」
それからなにやらナビの操作をしていたようなのですが、なかなか発車しません。
車内はシーンと静まり返っています。
「わからなければ、ガイドしますから。ナビは無くても大丈夫ですよ」
なかなか出発しないことに業を煮やした私は、身を乗り出してそう言いました。
「すみませんね。いつになっても慣れなくて。。。さっきもお客様に叱られてしまいました」
おじさん、年の頃は50半ば過ぎでしょうか。なんだか口調もお顔も優しそうな(悪くいえば気弱そうな)痩せた方です。
きっと別業種から転職してきたのでしょう。なんだかご苦労が想像されて、思わず私も夫も同情モードに突入です。
「いやいや、全然急いでないし!ゆっくりやってくださいよ!」
そんなやり取りがあったのです。
仕事には適性というものがあります。もしかしたら、このおじさんは業種を間違えたのか、それとも希望する職にありつけず、仕方なくタクシーに乗ることにしたのか。
この歳で転職とはさぞご苦労も多いことてしょう。性格の悪いサディスティックな客にどれだけ痛めつけられているのかしら?などと考えていたのです。
そんなことがあったので、いきなり水を得た魚の如く英語で話し出したおじさんを見て、あの気弱そうなドライバーは何処に⁉︎ と驚いた訳です。
俄然興味を持った私。
「英語が堪能ですが、どちらで習得されたのですか?」
そう、早速食いつきました。
聞けば、このおじさんは元商社マンで30年近くほとんど海外の各国で過ごしてきたそうです。
そんな生活に疲れ、第二の人生を!と、商社を退職し全く別の職種に転職したそうです。
まさに社畜の如く過ごした30年は常にストレスとの戦いであったそうです。
「この仕事もなかなか慣れなくて大変ですが、商社にいた頃に比べたら、ずっと楽しいですよ」
世の中、変わった人もいるものだなとポカンとしている私を置き去りに、ドライバーのおじさんは夫に向けて、日本経済の辿ってきた道など小難しい事を話しています。
その様子はまるで、
「おじさん、島耕作ですか⁉︎」
とでも言いたくなるようなジャパニーズビジネスマンです。
おじさんのキャリアチェンジはなんだかもったいない気もしますが、おじさん曰く、
「これから東京オリンピックもあるし、沢山外国の方が来日するでしょう。そんな方々のお手伝いが少しはできればど思っているんです」
こういう生き方って好きです。
本来なら商社マンでいた方が生活も安定するでしょうし、肩書きも立派です。
それでも、くだらない見栄など持たず、自分にとって何をすることが幸せかを考えて人生を変える選択をする。
人からどう思われるかなど、とかく気にして生きていきがちですが、そういった事に左右されず、自分の思いに忠実に生きる!
素晴らしいなぁ。と思いました。
たとえナビがうまく使えなくても、運転がゆっくりでも、あの丁寧な接客と語学力、コミュニケーション能力、何よりもお客様の役に立ちたいという気持ちがあれば、きっとおじさんの思い描く第二の人生を楽しく生きることができると思いました。
人生いろいろ。。。
私も食べ物のことばかり考えて、ボケボケしている場合ではないわ!